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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)516号 判決

被告人

城殿一明

主文

原判決を破毀して、本件を名古屋地方裁判所に差し戻す。

理由

弁護人中根稔の控訴趣意は、別紙の通りであつて、その要旨は、原判決はその量刑が不当であると謂うにある。

よつて原判決の量刑が不当であるかどうかを判断する前に、職権により、原判決を精査するに、原判決はその適條において、刑法第五十六條第五十七條を適用して、累犯加重をしているが、累犯となるべき前科及び受刑の事実とその証拠とを全く示していないことが明かである刑事訴訟法第三百三十五條第一項には、罪となるべき事実、証拠の標目及び法令の適用を示さなければならないことを明示し、累犯の事由となるべき前科は罪となるべき事実に該当しないけれども、同條第二項に所謂刑の加重の事由に該当し、当事者が主張したときは、これに対する判断を示さねばならないことは勿論であるが、当事者の主張の有無に拘らず、裁判所が、刑の加重事由ありと認めて、刑を加重する場合には、その事由と証拠とを十分に示さねばならないものと解すべきである。しかも、本件においては、檢察官において、被告人に前科のあることを主張し、これが証拠を提出していることが、原審第一回公判調書の記載によつて明かに認めることができる。而して被告人の前科調書並に弁解録取書(檢事に対する)によれば、被告人は、昭和二十一年六月十九日岡崎区裁判所で窃盜罪により懲役二年六月に処せられ、右判決は、同月二十七日確定したところ、被告人は恩赦と仮出獄により昭和二十二年十月四日出所していることが明かであるから判決確定の日から刑の執行を受けていたとすれば、累犯加重の事由となる前科があつたことになる。然るに原審は、右前科並に受刑の事実とその証拠とを示すことなくして累犯加重しているから、その判決は理由不備の違法がある。從つて刑の量定が不当であるかどうかについて判断するまでもなく、刑事訴訟法第三百九十七條第三百七十八條第四号により、原判決を破毀しなければならないので、同法第四百條により、本件を原裁判所である名古屋地方裁判所に差し戻すことにする。

よつて主文の通り判決する。

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